一般社団法人Japan Food Frontier    理事長 戸田成直

「子ども食堂について」

 ふと思うことがあります。「日本はこんなに暮らしにくい国だった?」

 飽食と大量消費が当たり前になって久しい現代において、子供の貧困など多くの社会問題が横たわっていることに違和感や危機感を覚えている方も少なくないと思います。

 

 私の中で貧困問題への意識が目覚めたのは今から3年ほど前、世間ではアベノミクスによる大企業と富裕層を中心に景気回復に沸き立つ最中、対照的に格差社会ということがトピックとして取り上げられ始めていました。

 当時丸の内にある飲食店で自分が日々料理とサービスを提供することで、『食』を通じて充実した時間をお客様に過ごして頂いているという、それなりの自負をもって仕事をしている中、私は「この東京で、満足な食環境で育つことができない子供達が沢山いる!」という事実に驚愕したのを憶えています。

 

 この事実に向き合い、子ども達の為に何が出来るだろうと考えた時、自分の仕事はお客様に最高の食事とサービスというエンタテイメントを届けることであり、日々テーブルの上で創り出される素晴らしい「食事」という時間を、自分たち「食」のプロフェッショナルが子供たちに届けられる手段があれば、何かを変えられるきっかけぐらいには役立つのではないか。命の灯を保つことがやっとの不十分な環境で過ごす子供達の日々の食事と、自分たちが仕事で提供しているような食事とのギャップを、プロフェッショナルとしての工夫や知恵をもって我々ならば少しでも近づけることが出来るのではないか。そんな取り組みが「食事のおいしさ・楽しさ・あたたかさ」を知ることで、子ども達の人生に小さな光明となり、家族や友達と食卓を囲むことの意義や料理をすることの楽しみ、我々料理人たちの仕事への理解と興味につながっていったら素晴らしい!という単純な思い上がりが最初のきっかけでした。

 「食べる」ということは大人にとってはもちろん、子供の成長にとっては最も大切な要素の一つです。彼らの健やかなる成長は即ちこの国の未来への希望であると同時に、我々大人が子ども達の「食」をはじめ、様々な環境を整えていくことが私たちに課せられている大きな責任であり、この国の健全なる存続のための緊急の課題だとも思っています。

 一方、飲食業界に目を向ければ、食に携わる仕事は創造性に富み素晴らしいものでありますが、この業界に就職しても、給与が低い、労働時間が長い、福利厚生が不十分など、良いとは言えない労働環境の中で目的や意識や誇り、楽しさなど就業当初の大切なものを見失って業界を去っていく者が後を絶ちません。食事を提供することで人々を幸せにし、自分達も幸せになっていくはずの飲食業が、飲食業だから仕方がないという間違った足かせが働き手を幸せにしないのです。

 

 「食」を通じた貧困問題への取り組み、飲食業界の環境改善と地位向上、これらの取り組みを行う組織づくりが必要だと考え、これまで仕事を共にしてきた素晴らしい仲間と共に一緒に立ち上がる事を決めました。

名称を『一般社団法人Japan Food Frontier』とし、昨年の9月から活動を開始致しました。

飲食を生業とする者が積極的に社会の問題にコミットすること、自分たちのスキルと資質を向上させることで新たな誇りと社会的な認知と地位を向上していくこと、これらの「食」を通じた活動で幸せな社会を実現することなどを目的として掲げました。

 活動の初めとして貧困問題を考える最中に、縁あって『子どもを守る目コミュ@文京区』の方たちと出会い「料理人たちが作る!子ども食堂ランチ会」を共に開催することになりました。昨年12月に第1回を開催、お付き合いのある産地やメーカーから想いのこもった食材を届けてもらい、シェフ達が想いを込め調理し、文京区の皆様と協力してたくさんの子供たちに料理を食べてもらうことが出来ました。一皿に関わった様々な人たちの想いが形となった料理を食べてもらう事で、食事という何気ない生活のひとコマが素晴らしいコミュニケーションの場であることを感じてほしいという想いでの取り組みでした。

 私達の活動第一弾としての子ども食堂を応援する取り組みは、今後も継続して年6回程度文京区でこのランチ会を開催していく予定です。

 将来に全ての子どもたちにとって食事が楽しい時間・空間・出会いの場であること、食の安全が当たり前になり、親御さんや調理人が不安なく食材を調理できること、食に携わる仕事をする人達が誇りと自信をもって仕事に取り組めること、何より私たち国民が「食」を通じて幸せになれること。それは実現可能なことだと信じ私達『一般社団法人Japan Food Frontier』は活動してまいります。

(2016年5月文京区男女平等センター(文女連)発行の雑誌に掲載されました。)

 

 

 

一般社団法人Japan Food Frontier    理事長 戸田成直  (料亭 赤坂とだ  主宰)